新月譚月姫最終巻がとっても素晴らしい―ファンタジーとリアルについての一意見を補足して―
傑作だぁぁぁ!
だれが何と言おうと、これは傑作だと思います。
もちろん「月姫」という同人ゲームの下地があってのことなんですが、それをマンガとして、世界観をここまで表現できたというのはホントに凄いことだと思います。
しかも今回は嬉しいことに大量の書き下ろしつき。
原作月姫の隠しシナリオに絡めたLost Epilogeとでもいうものが付いています。
奈須ワールドというのは究極の中二病世界、言い換えれば幻想を追求した世界だと思います。それは「空想具現化」とか「死を視る」とかそういうレベルの話ではなく、そういうものも包括した「もう一つの世界」「現実としてありえない現実」の世界だということです。
その意味ではどれほど残酷なことが起ころうが「ファンタジー」と同列に語られるのが適切な世界だと思う。
極端な話をするならば「レイプがある」とか「主役級の人間がゴミのように死んでしまう」というのは「幻想」の世界を語る上でそれほど重要ではない。「ファンタジー(幻想)」というのはそういうリアルで起こる出来事が「起きない」という世界ではないんだと思うんですね。
じつはこれを書いている間にSomething Orangeの海燕さんとチャットをしていました。内容は「聖☆高校生辛いよねぇ~」という話題。
なんでこの話を話題にしたかというと、この「聖☆高校生」というのはある種の「アンチファンタジー」であるという印象を受けたので、その意味で「月姫」と対照的だと感じているからです。
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「聖☆高校生」とは小池田マヤにより書かれたマンガで全11巻。いじめられっ子だった少年が美術史講師の御園の痴態をみたことから、さまざまな出来事を経験して成長していくマンガ。ここでは具体的には言わないがさまざまな女性から影響を受け、傷つき、苦しみながら変化していくさまが克明に描かれる。みているものにこれでもかといわんばかりに現実を突き付けてくる様は見ていて痛いとしか言いようがない。主人公は11巻の間に高校生をやったりホストになったりヒモになったりとかなりアアアな世界を生きている。見るべきか見ないべきかと問われるなら見るべきと答えるが、「劇薬注意」の札を貼り付けておきたいぐらいには危険。類似に「ヤサシイワタシ」などが思い浮かぶ。処方箋としては「っポイ!」とか「ネギまる」「Re-take」なんかから入れば少しは耐性ができる気がする。これから読む人にいいたいことは只一言「ガンバレッ」
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「聖☆高校生」がアンチファンタジーというのはどういうことかというと「幻想に浸ることを許さない」創りになっていることがあげられる。ある種の「リアル」の果てが此処にあるんですね。
たぶんこれを見て衝撃を受けるひとは「旧エヴァの衝撃」に近いのではないかという所感を抱きます。
あれも一見ファンタジーな世界でありながらリアルな方向に転換されていた。それは庵野監督の「オタクよ現実を見ろよっ」という主張が付帯されていたのも大きかったと思う。
ちょうど旧エヴァの話が出たのでちょっとだけわたしなりの補足を入れてみると、読み手に「リアル」を突き付ける作品というのは「現実に目を向けさせてしまう」作品ということを意味している。
たとえば旧エヴァの映画を見ていればわかると思うが、庵野監督はエゴイスティックなまでの「いつまでも幻想に浸ってるんじゃないよ、オタクども」という主張を作品の中で表現している。それは見ている人からすれば「夢の中にいたのにいきなり現実を見せられる」というある種のテロ行為(これはいいすぎかもしれないが、そういう人もいただろう)であり、その結果「現実を無理やりにまで見せられる」
このように暴力的なまでに現実を見せてくる作品を指して「リアル」なマンガと言っています。
対照的に「月姫」というのはどこかやさしい。
人も死ぬし、別れもある。きっと残酷な死にたくなるような出来事、死んだ方がましだと思える出来事もあるのだろうけど。それでも優しい。
それは幻想を幻想として許容し、読み手が幻想に浸ることを許しているからだと思うんですね。
今回ラストに追加された書き下ろしの一言(たしか原作にもあったと思う)がそれを象徴している気がします。
「君は人より不出来な体を持ってしまった。ならそれを呪ってしまうし、これからの人生だって怖いと感じてしまうでしょう。君、そんな体のまま生きていくのは辛くない?――そうでしょう?君はもう人並みの幸福なんて手に入らない。その体を抱えているかぎり君は苦しんでいくだけ――」
「……そうなのかもしれません。でもきっと幸せですよ。
だって今までが楽しかったんです。だからきっとこれからだって楽しいんだ」
こういうセリフを言うことができる。それを当たり前のようにいうことができる。そういう世界を創りだしたところに奈須きのこという作家の素晴らしさの一端があると思います。
…ああ、すばらしいなぁ。最終巻までありがとうございます。佐々木少年先生!
追記
いやぁ、常々。先生とのラストシーンを書いてほしいと思ってたらまさかやってくれるとは!それどころかその先までやってくれるとはなぁ。すごくうれしい。
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